天を衝く(1)

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高橋克彦. 天を衝く(1). 講談社, 2004.
ISBN 4062749157 (Amazon)

蝦夷に続いて、今度は中世の話。何か最近、東北づいている。ちなみに、『天を衝く』は、九戸政実を主人公とした高橋克彦の小説で、『炎立つ』(奥州藤原氏)、『火怨』(阿弖流為)に続く、大河3部作の決定版とのこと。

最近、戦国末期の歴史はかなり書き換えられる可能性が出てきている。たとえば里見氏。義頼の家督相続周辺だけではなく、義堯の家督相続周辺も、これまでは里見氏に都合の良い史料(作られた史料)だけが残され、それを元に記述されてきたが、郷土資料の見直しにより、どうやらそれだけではなかったことがわかってきている(詳細は天文の内訌を参照)。

本編で扱う九戸氏もおそらく然り。江戸時代に正統となった三戸南部氏(加えて津軽氏)に都合の良い歴史だけが残されたが、近年、八戸南部氏や九戸氏、あるいはその他氏族を扱った史料が見直されてきている。特に九戸氏は、南部氏の支族ではなくて、実は小笠原氏だったのではないか、という説もある。そういった最新の歴史情報を元に、小説が書かれていることを期待して、で、早速購入。

して、読んでみたんだけど、どうやらちょっと違うらしい。歴史小説はフィクション無しには成り立たないのはわかるけど、ここまでフィクションが多い、というか、ノンフィクションから外れた憶測の部分が多いと、ちょっと微妙な気がする。

期待が大きかっただけに裏切られた感じ。純粋に小説としては面白いけれども、ノンフィクションを重視する立場からすると、2巻目以降はちょっと購入できそうもない。

以下、小説の内容に触れるので、追記へ。

2006/12/23 01:20:22

小説だと、九戸政実はかなりすごい。津軽為信と親交を持っていて、為信は秘密裏にいちいち政実の指示を仰いでいる。南部晴政はかなり暗愚、どうしようもない。田子信直も然り。北信愛だけが唯一切れ者だろうか。

しかし、一方で、歴史小説なので、史実を踏まえて内容が構成されている。だから無理が生じている。政実は能力があるにもかかわらず、為信が勢力を広げるようには広げられていない。その理由が南部家臣として忠実であろうとすると、勢力が広げられない、となっている。信愛は切れ者にもかかわらず暗愚であるはずの信直を支持している。これは、政実をして不明な点となっている。晴政は暗愚であるにもかかわらず、広大な領土を保っている。これについては書かれていない。

やはり能力設定に無理があるんじゃないかな、と思う。ここまで政実を英雄にして、敵対者を暗愚に設定する必要はあったのかなあ、とも。史実を詳細に知りたい立場からは、あまりお薦めできない小説です(小説に求めるのは間違っているかも知れないけど)。ということで、2巻目以降はおそらく読みません。

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このページは、NGEが2006年12月23日 01:06に書いたブログ記事です。

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