蝦夷(えみし)の古代史

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工藤雅樹. 蝦夷(えみし)の古代史. 平凡社新書, 2001.
ISBN 4582850715 (Amazon)

蝦夷(えみし)の古代史。ご丁寧に、えみし、とふりがなが振ってある。

日本史を習った人なら、気になったことがあるだろう。平安時代の蝦夷(えみし)と江戸時代の蝦夷(えぞ)。字が違うのに、読み方は一緒。でも、蝦夷(えみし)は東北地方で、蝦夷(えぞ)は北海道。同じなのか、それとも全く別物なのか? 本書を読めば、それが分かるらしい。

最近、古代史の本を読んでいたけど、ふと、その頃の東北地方ってどうだったんだろう?と気になって手に取った本。

本の最初の方は、著者自身の発掘体験談とか研究歴とかが入っていて、正直読みにくい。本を書き慣れていないのかな、と思って、奥付を見たら、1937年生まれ。こういうスタイルで書く方なのかも知れない。けど、やっぱり学者でもない一般人が読むには、ちょっとつらい……。業績とかそういうのに興味なく読むのだし。

と思って、先日のエントリーにもはっきり外れかも、と書いたけど、ところがどっこい、発掘メインのところが終わると、そういった話も少なくなり、引きずり込まれる。もちろん文がやや冗長な嫌いはあるけど、「蝦夷(えみし)」かつ「古代史」なんていうマニアックなタイトルで読み始めた人には、多分気にならない!(笑)

本の内容に触れておくと、始めに蝦夷(えみし、毛人とも)とは、もともとどういう意味だったのか、に触れ、そして、

大化の改新の前

このときは、東国人(毛野とか)を指して、毛人と言ったそうな。

大化の改新後

朝廷の支配の及ばぬ東北地方(あるいは北海道も)を指して、蝦夷と呼ぶようになる。基本的に、朝廷側の柵や城のある北側(阿武隈川と信濃川の北側)に住んでいた。和人とは風俗だけではなくて、言葉も違うらしい。

それ以降

朝廷が武力による征伐を繰り返すたびに、蝦夷固有の領土は北方に狭められていく。大野東人とか坂上田村麻呂とか。征伐して配下になった人たちは各地に強制移住させられ、また和人が植民することで、朝廷の領土になっていく。武力征伐だけではなく、蝦夷同士の抗争で、朝廷側を味方に付けるため自ら降った蝦夷もいたらしい。同時に、武力征伐とは別に交易もおこなわれ、和人の文化が蝦夷に伝えられる(古墳とか稲作とか)。

桓武天皇以降

徳政論争の結果、蝦夷に対する武力征伐は終了し、朝廷は、秋田城と志波城を結ぶライン以上には北上しなくなる(しかし、こんなところでも藤原緒嗣が出てくるとは! 恐るべし、緒嗣)。この後、安倍氏、清原氏、あるいは奥州藤原氏などが出てきて、独自に蝦夷を勢力下に置いていく(このあたりの説明は残念ながらほとんどない)。戦国期の南部氏や九戸氏の配下にも蝦夷がいたそうな。

と、時代順に蝦夷の動向を解説していく。

読んで初めて知ったのは、既に平安時代あるいはもっと前に、「衣曾(えぞ)」という名前で北海道が出てきていること。京からすると非常に僻地なのに、しかも蝦夷側の領土なのに、どうやって地理がわかったのか、非常に不思議なところ。和人が行ったんだろうか。このあたりもないので、もうちょっと何か読みたいな。

通して読むと、アイヌ=蝦夷(えみし)としか思えなくなった。そもそも和人とは言語が違うらしいし。それにアイヌと風俗がかなり共通しているし(信仰にも共通点が見られる)。ただ、交易などで和人文化が浸透したので、「蝦夷日本人説」が提唱されるくらい、和人文化的な史跡が発掘されているらしいが。

ということで、面白かった。蝦夷(えみし)の本はそんなにはないので、蝦夷(えみし)のことが知りたかったら、是非一読を。ただ、正直言うと、もうちょっといろいろと書いて欲しいところかな(蝦夷側の史料なんてないから、これが限界なのかも知れないけど)。特に徳政論争以降の動向。最後の考察(蝦夷日本人説と蝦夷アイヌ説の対比)まで持って行くには、ちょっと足りない気がする。

(Last update: 2006/11/09 02:27:58)

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このページは、NGEが2006年11月 9日 01:49に書いたブログ記事です。

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