不都合な真実
デイビス・グッゲンハイム. 不都合な真実. 2007.
元の英語版は→ Davis Guggenheim. An Inconvenient Truth. 2006.
“An Inconvinience Truth”。邦題、『不都合な真実』。
以前から見に行こうと思っていたけど、茨城県ではひたちなか市でしか上映されておらず、都内でも4館(山手線内は2館だけ)。なかなか都内に出る機会もなく。ようやく8日の日曜日に都内に買い物で出かけるついでに、dk_blissさんを誘って見に行ってきました。彼と映画を見に行くのは2度目だけど、奇遇にも場所は一昨年と同じ六本木ヒルズ。
さて、多分、ご存じの方も多いと思うけど、この映画は、アル・ゴアが制作した地球温暖化に関するドキュメンタリーです。日本語版の公式ウェブサイトに行くと、「文部科学省特選作品」とか「チーム・マイナス6%」とか結構ものものしい。一瞬だけ大統領になったゴアがやれば、それだけのインパクトがある、っていうこと。
って、この手のドキュメンタリーにしては、宣伝も素晴らしいんだけど、内容もまた素晴らしいものでした。
地球の気温は確実に上昇している、その速度はCO2濃度の変化とほぼ一致している。過去数千年の気温変化を追うと、気温はCO2濃度とほぼ一致しているが、これまではどんなに気温が高かったときでもCO2濃度は300ppmを超えたことがない。しかし、産業革命以降、CO2濃度は急増し、300ppmを突破、未曾有の濃度になっている。気温はCO2と一致する。さらにこれからも上昇が見込まれるCO2濃度。このままでは数百ppmも突破してしまいそうだ。……では、これから気温はどうなってしまうのだろうか?
ここ数十年で、世界各地の氷河が急激に縮小。極地の氷も急速に融解。一方で、ここ数年、過去に例を見ない数のハリケーンの発生、あるいは大規模化。都市近くの海面が上昇したり、大規模なハリケーンが都市を襲えば、人間はどうなるか? 2005年にテキサスをおそったカトリーナの例を挙げ、このままでは今後未曾有の災害が人類を襲うことを暗示しています。一億人もの難民が出るかもしれない、と。
この映画を見て、それでも地球温暖化に無関心で居続けられる人はいないのではないか?、そう思うほどの出来でした。
最後に、でも、人類は確かに地球温暖化に至る原因を作ったが、それを取り除く能力も持っている、と締め、スタッフロールでは、我々一般市民に何ができるのか?、を少しずつ紹介して終わり。
真面目に素晴らしい映画でした。地球温暖化の情勢報告だけではなく、ゴアの人生や政治活動を交えながら進んでいくので、思わず引き込まれます。残念ながら上映館は少なく、既に上映が終わりつつ映画館もあるけれども、環境問題に興味のある人もない人も一度は是非見て欲しい映画です。おすすめ。
以下は、余計な(?)雑感なので追記へ。
2007/04/10 00:45:53
上記は、純粋に素直な感想。でも、この分野に携わっている研究者としては、残念かな、素直に見ることはできず、いろいろ考えたりしてしまう……。以下に、それらをメモ。
この「不都合な真実」は、市民に訴えかける、という意味では、非常に良くできているけれども、一方で、必ずしも真実ではない部分もある。CO2濃度の上昇、気温変化、そして昨今の災害の発生や氷河の消滅。これらはいずれも真実。疑う余地はない。しかし、これらの間に因果関係があるか?、というと、難しい。IPCCの第4次報告書(正式版は今年5月、でも2月に出た政策決定者向け要約ならば気象庁による日本語版あり)では、次のようになっている。
氷河の縮小を含む気候システムの変化は疑う余地がない。
1750年以降の人間活動が、地球温暖化を招いている、という結論は信頼性がかなり高い(90%超の発生確率)。
しかし、干ばつや強い熱帯低気圧、あるいは極端な高潮位の発生の増加に対して、人間活動が寄与した可能性は、どちらかといえば高い、にとどまる(50%超の発生確率)。
この最後の部分がくせ者で、実はまだ50%超に過ぎない。ましてやカトリーナが人間活動が引き起こした地球温暖化のせいかどうかは全く分からない(ちなみに、沿岸部でのハリケーンによる被害額は最近増加傾向にあるが、その主たる原因は、ハリケーンの発生増や大規模化ではなく、沿岸部に人が多く住むようになったことにあるらしい)。このせいで、どうしてもこの分野の研究者は断定口調で物事を発言するのをためらい、また懐疑派が跋扈する要因にもなっている。それに対し、映画の中では、事実上、断定している、と捉えられてもおかしくない表現を使っている。
ただ、映画があたかも因果関係が明確であるかのように表現したことに興味を持って、IPCCの報告書を読もうと思ったりする人が増えれば、また、それもいいことかも。この辺は研究者にはできないけど、政治家にはできることなのだろうか。
映画という形式を取っているので、おそらく後世までちゃんと残るだろう。でも、テレビと違って映画なので、興味ある人しか見に来ない。この映画の目的は、地球温暖化に興味を持ち、対策を推進させよう、とする人を増やすことが第一の目的であるはずだけれども、始めからそう考えている人しか見に来ないような気がする。残念だ。上映終了後にでも、どこかのテレビでやってくれないものだろうか。できればゴールデンタイムに。
プレゼンの旨さには脱帽するしかない。ゴアのような人がもっとたくさんいれば、各地で講演して、地球温暖化に興味を増す人がもっと増えるのに、と思う(実際、ゴアは世界各地で講演しているけれども、彼一人では話せる相手の人数が限られる)。
大学の講義とかで使えそうな気がする。環境教育として。もちろん高校や中学校の授業でも。機会があれば使いたいな。ちなみに、ゆっくり語っているので英語も聞き取りやすい(日本語版は字幕が日本語、音声が英語)。DVD化されたら資料として買っておきたい。
とりあえず、こんなところ。でも、いろいろあるけど、とにもかくにもおすすめであることには変わりありません。是非一度観てください。
一番印象に残った言葉は次。ThisはGlobal warming。
This is not a political issue so much as a moral issue.
2007/04/10 00:45:53
2007/04/12 00:38:14
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難しい!
てなことがあるわけではなく、、、
人間活動→地球温暖化が定性的に正しくても、人間活動→地球温暖化の関係を定量化しようとしたときには、現在の知見では、ある程度の幅が出てきてしまいます。そこで、確率表現を用いて定量化するようになっています。正規分布みたいな奴を考えてもらえればわかりやすいかも。ちなみに、IPCC自体が独自の研究をおこなっているわけではなく、いろんな論文を集めてきて、それらをまとめているだけなので、文献ベースだけでも幅が出てきます。数値モデルの結果を引用した場合は、数値モデルの方で既に幅が出されているので、複数の数値モデルを引用した場合は、さらに幅が出る、というわけ。
たとえば、人間活動の下りは、報告書では「1750 年以降の人間活動は、世界平均すると温暖化の効果を持ち、その放射強制力は+1.6[+0.6~2.4]Wm-2 であるとの結論の信頼性はかなり高い」となっていて、「かなり高い」=「発生確率が90%を超える」と定義されています。
これをどう簡単に表現するか、ですが。俺の元の表現だと正しいor間違いの2択のような印象を与えるかもしれないですね。ちょっと表現を変えてみました。如何でしょうか?
>IPCC自体が独自の研究をおこなっているわけではなく、いろんな論文を集めてきて、それらをまとめているだけなので
あ、そうなんですかー。知りませんでした。
Annual reportみたいなものを想像すればよいのでしょうか。
今度読んでみますです。
そうですね。Annual reportみたいなのかな?(ってAnnual reportをよく分かっていない)
政府とかの委員会と同じ乗りです。専門家は集まるし、議論はするけど、基本的には独自研究はない、というもの。是非、読んでみてください。要約だけでも。5月にちゃんとした報告書が出たら、ちゃんと読んでみようかな、と思っています。