「茹でる」のLCA
ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment, LCA)とは、製品をゆりかごから墓場までトータルで評価しようという手法で、現在、環境負荷の削減を目指して、さまざまな製品に適用されている。
たとえば、自動車――。
従来では、燃費だけ捉えて、環境性能が評価されてきた。燃費の良いクルマ=環境に優しいクルマ、っていうわけ。でもでも、クルマを製造するときにたくさんエネルギーを使っていたら、意味がない。最近のクルマ、たとえば、プリウスなんて、エンジンだけじゃなくて、モーターと大容量のバッテリー、それにさまざまな電子機器を積んでいるので、製造段階でかなりのエネルギーが投入されているのでは?、と思われる。
では、いったいどうなの?
2007/05/23 00:41:25
LCAをおこなって、ライフサイクル全体での環境影響を見てみればよい。ちなみに、プリウスの場合、天下のトヨタ自動車がそんなことを考えていないわけがなくて、しっかり計算している。
出典: プリウスの環境仕様のサイト (http://toyota.jp/prius/ecology/)
たとえば、CO2排出量を見てみる。
- プリウスと同クラスのガソリン車のCO2排出量を1000とすると、ガソリン車では、全体のうち、製造段階(素材製造+部品製造)で150くらい、走行段階で750くらい排出されている。残りの100はメンテナンスと廃棄段階。
- 対して、プリウス。製造段階は確かに大きく、300くらいに増大している。しかし、燃費がよいおかげで、走行段階はぐっと抑えられ、わずか350に。そして、メンテナンスと廃棄はガソリン車とほぼ同じ100程度。
つまり、プリウスは、ライフサイクル全体で見ても従来車より環境に優しいわけです。もちろん、これは10万kmを10年かけて10・15モードで走行した場合という条件付きだけど。ほとんどクルマに乗らない人はガソリン車の方がいい場合もあり得る。
てなわけで、今や、あらゆる製品やサービスに適用されるようになってきたLCA。LCAを実施することで、どんな対策を施せば環境に優しくなるか、ということがわかるわけ(自動車の場合は、CO2排出量で全体の7割を占める走行段階を改善するのが第一、っていうふうに)。
こうして企業活動に広く適用されているLCAだけど、それだけじゃ勿体ない、ということで、今、消費者の行動にも適用できないだろうか、という動きが出てきている。消費者といえば、衣食住。以前ちょっと触れたけど、実は、住宅での空調や自動車と同じくらい、食事も大きな環境負荷を持っている、ということが分かってきている。
じゃあ、食に対してLCAをやってみよう、ということで、そういった試みも既に始まっていたりする。食事のLCAの場合、作物の栽培から調理に至るまでを評価する必要がある。その中で、調理工程におけるCO2排出量は既に分析されていて、こんな結果が得られている。
- 茹でる……論外。
- 煮る、炊く、揚げる……それなりに環境負荷。
- 炒める……あんまり良くない。
- 焼く……まあ、マシな方?
- 生……環境負荷ゼロ。って調理じゃないか?
まあ、麺を茹でるとき、その何倍もの水を沸かした挙げ句、それをそのまま捨ててしまうことを考えれば、明らかに無駄でいっぱいの調理方法であることは、容易に察せられるわけですが。
じゃあ、茹でるの、止めろ。麺好き、逝ってよし、という結論になるかというと、そういうわけでもない。麺を茹でる代わりに焼いたら、全く別の料理になってしまう。さっきのプリウスが同クラスのガソリン車と比較しているように、「茹でる」に関しても、本当は同等の調理方法と比較しないとならない。
でも、実際には「茹でる」に代わる調理方法が提案されていない。できることと言ったら、
- 鍋に蓋をする(熱が逃げないので良い)
- コンロの火を適切に(小さいほど火の漏れが少なくて省エネ)
あたりらしい。冗談みたいな話だけど、それを真面目に分析した研究があり、ガスコンロでは弱火ほど、電気コンロでは強火ほど省エネらしい。で、CO2排出量で両者を比較すると、電気コンロ<ガスコンロとか。 もしかしたら、電子レンジで茹でるとか、水を最小限にして茹でるとかにすると、同じ「茹でる」でも、もっと省CO2かもしれない(でも茹で加減が同じにならないかも。さすがに分析されていなかった)。
どちらにせよ、麺好きはそれなりに環境負荷の高い生活のようなので、蓋と火の強さの加減には気を配っておいても良さそうです。
2007/05/23 00:41:25
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